風の彼方へ

そして、いま、ここに在ること

旅立ちの日 その3

KSさんとは、私の自宅に来てもらったのを最後に
しばらく会っていませんでした。
メールもその後は、10日あまり途切れていました。
その頃、不思議なことがありました。

それはまだまだ、ジリジリとした夏の暑さが残っている頃でした。
自分の部屋にいたとき、いきなりパンッという大きな音がしたのです。
振り返って見てみると、ただそこに置いていただけの瓶が、
何もしないのに割れていました。

その瓶には、きれいな色の液体が入っていました。
それはちょうど、KSさんが我が家に来たときに、
「きれいだね」と言っていたものだったのです。

それを見てすぐに、KSさんになにかあったのではないか
と思いました。
何か別の存在が、KSさんの異変を私に知らせてきたような、
そんな気持ちになったのです。

胸騒ぎがしたので私は、急いでKSさんに電話を入れてみました。
しかし、電話はつながりませんでした。
そこで次に、メールを入れてみました。

「ご無沙汰していますが、体調の方は大丈夫ですか。
なにか変化がありましたら、すぐに連絡をください。」

メールの内容は、こんな感じだったと思います。
やはりというか、返事はすぐには来ませんでした。

何もしていないのに粉々になってしまったガラスの破片を
拾い始めたときに私は、
もしかしたらKSさんは、いつもとても気丈な態度に見えたけど、
その心の奥底では、孤独感を感じていたのではないのだろうか、
と思いました。

そして、もしかしたら、そういった孤独感によって
体中に病気が蝕むことを許してしまったのかもしれない、
と思ったのです。

KSさんが、私に出会うまでは、
病気を治すことに専念していたと聞いてはいました。
だからそのとき感じたことは、私が彼女からの、
一緒に喫茶店をやろうという提案を
むげに断ってしまったことへの
自責の念から出てきたことかもしれません。

いずれにしても私は、突然割れたガラスの破片を片づけながら、
そんなことを感じていました

それから三日ほど経って、
ようやくKSさんから返信メールが来ました。

「バタバタしていて、返事が遅れて申し訳ありません。
ちょうど連絡をもらったときは、意識不明となって倒れてしまい、
救急車で運ばれていたときでした。
いまはホスピスに入院しています。」

といったような内容でした。

意識不明で倒れていたのに、
「バタバタしていた」と表現するところに、
KSさんらしさを感じました。
一方で、彼女がホスピスに入ったことに、
なんだか複雑な気持ちになったことを覚えています。

その数日後に、私はメールに書かれていたそのホスピスを訪ねました。
そこは都内のある大きな病院の最上階でした。

KSさんの病室は、とても清潔感にあふれていました。
窓からは、都内の街が遠くまで一望できる景色が広がっていて、
私が勝手に想像していたものより、
はるかに明るい印象を受ける場所でした。

そのときのKSさんは、なにか吹っ切れたような落ち着きと
明るさを醸し出していました。
それはとても余命数ヶ月ということは想像ができない姿でした。

KSさんは私の顔を見て、
「あまりにタイミングのいいメールにビックリした」
といいました。

そこで私が
「あのきれいだといっていた瓶が割れて、
誰かが知らせてくれたんですよ。」
というと、さらに驚いた顔をしていました。

そんな話から始まって、次第に
KSさんの状態についての話になっていきました。
そのとき彼女は、

「手術はもうやらないことにした。
手術をすればあと半年長く生きられるといっても、
身体が衰弱して管だらけで生きていないといけないらしい。
そうまでして生きていたいとは思わない。」

そして、

「そのときが来たら、もう延命治療はやらないということで
担当医には話をしてある」

といったような内容のことを、淡々と話してくれました。

そして次に、私に対して死んだ後のことを頼んできました。
KSさんの希望は、自分の骨を
富士山の見える場所に撒いて欲しい、というものでした。

私は二つ返事で承諾したのですが、
残念ながらそれは実現することがありませんでした。

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Category : KSさんのこと
Posted by machiku on  | 2 comments 

2 Comments

元R師 says..."No title"
お~、不思議な事が起こってますねえ。

赤の他人が死後の面倒を見るのは、色々と難しそうですね。
2014.08.23 20:53 | URL | #- [edit]
深山 says...">元R師さん"
不思議なことは、もう少し続きますよ。
身近な人の死に立ち会うとき、
周りの人もバルドーに近くなっているような気がします。

本当にそうでしたね。
2014.08.24 14:13 | URL | #8w11VUaU [edit]

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