風の彼方へ

そして、いま、ここに在ること

旅立ちの日 その2

KSさんとはメールで何度かやりとりをした後、
表参道の、ある自然雑貨屋さんの喫茶室で会うことにしました。

ハーブティーをメインにしているその喫茶室は
飾り気がなく、とてもシンプルなレイアウトのお店でした。

その喫茶室の片隅の席に着くやKSさんは
「こんな感じの喫茶店がやりたかったんだよね」
と、つぶやくように言っていました。
その言葉が印象に残りました。

じつは、そこからさかのぼること数年前に、
「一緒に喫茶店をやらないか」という話を
やはり人づてにKSさんからもらっていました。

そのときはあれこれ考えて、断っていました。
喫茶店をやるとなると、調理や掃除の他にも経理などといった
雑多なことをやらなければいけません。
そのどれをとっても、私にとっては苦手意識を感じるものばかりです。
逆にKSさんは、意外に思われるかもしれませんが
家庭的な一面を持っていて、
それらすべてを、とても上手にこなすことができる人でした。
それだけに、私ができることは何もないように感じて
お断りしたのでした。

久しぶりに再会したKSさんは、先ほどの言葉に続けて、
「教団から出てきた元サマナの人たちは
一般の社会の中では行き場が無いと感じている人が多いだろうから、
そんな人たちが、気軽に集える場所をつくりたかった」
といいました。
私はそのとき初めて、KSさんが喫茶店をやりたいといった
真意を知りました。
その言葉に、少しだけ胸が締め付けられるようになりました。
それはあのとき断ってしまったことへの後悔の念が、
少なからず出てきたからかもしれません。


そんな話から始まって 、話は何時間も尽きませんでした。
その中でKSさんは、その時点で
あと余命半年と宣告されていることを教えてくれました。
そして、自分の身の上に対して、こんなふうにも言っていました。

「医者からは、手術をすればもう半年ほど長く生きられると言われた。
でも私には、何かや誰かのために
少しでも長く生き続けなければという強い動機があるわけでもないし、
それよりそろそろ身辺整理の計画をしたほうがいいと思っている。」

さらに続けて、

「これまで病気を治す方法がないか、さんざん探したけど、
良い方法を見つけることはできなかった。
生きることに必死になって、何か方法を探し続けることと、
それとは別に、次の転生のために準備をすることの両方をすることは
私にはできないから、どちらかを選ぶことに決めた。
私は、これからは次の転生のための準備をしようと思う。」

と、こんな趣旨のことを話してくれたのです。

私は、生きることに必死になることと、
次の生の準備をすることの両方はできないというその言葉に
深く納得しました。
私も同じ立場だったら、まったくそう思うだろうと感じたからです。

同時に、KSさんのそのときの状況を想像して、
彼女の考えを理解してくれる人が周りに誰かいるのか、
ということが心配になりました。
KSさんは刑に服して世間に戻った後は、教団に復帰することなく、
そのときは実家のそばで一人暮らしをしているという状況だと
聞いていたからです。

オウムに身を置いた人に限らず、輪廻転生を信じているなら、
KSさんの気持ちはある程度、理解できるでしょう。
しかし、世間のたいていの人は、いま生きているこの生がすべて、
と考えています。
そういう人には、KSさんの考えは
とうてい理解できるものではないはずです。
も しもKSさんがいるのがそんな環境の中で、
一人黙々と次の生の準備を進めなければいけないとしたら、
それは精神的にかなりきついのではないかと感じたのです。

そこで私は、私自身がKSさんの理解者になろうと考えて、
KSさんのその考えに全面的に同意し、協力できることがあれば、
できるだけのことをするという趣旨のことを伝えました。

誤解のないように付け加えておくと、もちろんそのときの私には、
KSさんの死を望む気持ちなどみじんもありませんでした。
むしろできるかぎり長く生きて欲しいと思っていました。

ふつうなら、死を目前にしているというその状況だけでも、
肉体だけではなく、精神的にも相当にきついはずです。
そんな中で、まわりに誰も理解者がいないということは、
相当に辛いことです。
だから、少しでも気持ちが楽になる手助けになるのならと、
次の転生の準備をするための協力者になることを申し出たのでした。
これには彼女もたいへん喜んでくれました。

そして、その数週間後、KSさんは、そのときに住んでいた
私の自宅を訪ねてくれました。

その後、私は頻繁にKSさんと会うようになりますが、
その場所はあの喫茶室でも、私の自宅でもありませんでした。

そのあたりのことは、また次回に書きたいと思います。

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Category : KSさんのこと
Posted by machiku on  | 6 comments 

6 Comments

yasu says..."No title"
昨日の朝方、かなりの重さのある、オウムの
教義集のような本を2冊貰った夢を見ました。
深山さんからのご返答のメールと
関係があるのか定かではありませんが。

2014.08.19 01:43 | URL | #s48xcqFo [edit]
深山 says...">yasuさん"
とても示唆的な感じを受ける夢ですね。
私も関係があるかはわかりませんが、なんにしても、興味深いタイミングの夢だと思います。

それから、返信メールを読み返してみると、ちょっとわかりにくい文章だったかなと思ってしまったことと、内容的に大事なことだとも思ったので、重複になるかもしれませんが、今回のシリーズの最後あたりに、もう一度、本文に書いてみたいと考えています。
2014.08.19 08:51 | URL | #8w11VUaU [edit]
元R師 says..."No title"
>「次の転生のための準備をしようと思う。」
いいですね。
さすがは偉大な修行者。

だけど、懐かしいなあ。
彼女の人柄が思い出されます。
2014.08.19 20:16 | URL | #- [edit]
深山 says...">元R師さん"
最後まで、まったくぶれませんでしたよ。
グルから強い人だといわれていただけのことはあったと思います。
2014.08.21 09:34 | URL | #8w11VUaU [edit]
Simon says..."ちょっと分かる気がします。。。"
深山さん、こんばんわ。

素敵なブログの更新、ありがとうございます!

「表参道」とおっしゃった時はびっくりしました。とても自然豊かで離れた所にいらしている印象があるのですが、都内に行くことがあったんですね。多分、めったにないことかもしれませんが。

「次の準備」について理解できないかもしれないとおっしゃってましたけど、確かに「宗教」にたいするアレルギー反応がある多くの日本人にはそうかもしれません。でも、何らかの形で来世が存在すると意識している人間は理解できると思います。たとえ、違う信仰の持ち主でも。
2014.08.26 07:05 | URL | #- [edit]
深山 says...">Simonさん"
いつもコメントをありがとうございます。

かつて、私は引っ越しが多くて、この当時は川崎に住んでました。なので、この頃は都心に行くのが容易だったんです。現在は、ご想像の通り都心に出るのはたいへんですけど、でも、用事があれば時々出てますよ。

本当におっしゃるとおりに、現代の日本人は、輪廻転生を信じていると言っている人でさえも、来世の準備ということは考える人は少ないし、人にもそれを強制しがちですよね。
そういえば、このときも教団とは無関係でも理解してくれた人は、ダンナさまが外人の方でした。ただの偶然とは言い切れないことかもしれないですね。
2014.08.27 11:44 | URL | #8w11VUaU [edit]

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